カオスな挙式を経て、披露宴の時間となった。会場はとても豪華で、各テーブルには鮮やかな装花が飾られている。
テーブルメンバーは会社の仲間で固められており、俺の隣は松さんだった。
「それでは新郎新婦の入場です。皆様、万雷の拍手をもってお迎えくださいませ」
司会の声が会場に響いた。その口調と風貌は名司会者の徳光和夫さんにそっくりだった。
なお、国際結婚ということで会場には通訳者がおり、誰かがマイクを通して発言すると、すぐにその言葉が通訳されていた。
二人が万雷の拍手をもって迎えられメインテーブルについた。続いて、マイクを渡された新郎のケビンがウェルカムスピーチを始める。
「ホンジツハ、ゴタヨウノナカ、マタ、エンポウヨリ、アシヲオハコビイタダキ…」
相変わらず、日本人以上に日本人らしい言葉を使う外国人だ。「通訳がいるのにわざわざ日本語で挨拶しなくても…」と思ったが、ケビンの日本語にはなんとも言えない味があるので、それはそれで良いとも思った。
続いて主賓の挨拶に移った。新郎側の主賓は支社長。定番すぎて逆に聞いたことがない「三つの袋」の話をしていた。「堪忍袋」「給料袋」「お袋」という日本語ありきの話なので、通訳さんはさぞかし訳しづらかっただろう。
新婦側の挨拶は、ケビンの日本人上司だった。外資系企業の日本支社長だけあって「できる男」感が漂っている。スピーチも、新婚夫婦への祝福と助言、そしてユーモアが程よくミックスされた素晴らしい内容だった。この結婚式で一番の安心感だったかもしれない。
続く乾杯の挨拶は、新郎側に適任がおらず、新婦側の中山課長が依頼されていた。しかし、課長が体調不良で欠席となり、松さんが代打の指名を受けていた。松さんには昨日連絡があったらしく、一応話す内容は決めているようだった。
「会場のボルテージを最高潮まで高めて頂く大役は、新婦の会社の先輩であられます松島様。いざ、ステージの前へ!皆様、万雷の拍手をもってお迎えください!」
徳光さんからの大袈裟すぎる呼び込みを受けた松さん。会場からは大きな拍手。どこからか「ピーピー」という指笛まで聞こえてくる。
俺の横に座る松さんはなかなか腰を上げようとしない。小声で「松さん」と呼びかけると、やっと立ち上がった。なんだか様子が変である。会場の前方へ移動する松さん。その歩き方はロボットのようだ。ぎこちない足取りでマイクスタンドの前に立った彼の足は、大きく震えていた。
間違いない。緊張している。
会場が静かになっても、松さんはなかなか話を始めない。おそらく、頭が真っ白になって、準備してきた言葉が飛んでしまったのだ。
口を半開きにしたままの松さん。俺は「松さん、しっかりしてくれ!」と心の中で叫んだ。
「では、お願いします!」
しびれを切らした徳光さんが催促する。
「ハ、ハ、ハイ、エブリワン」
松さんは右手を挙げてそう言った。
「皆さんこんにちは」
通訳さんは律儀に英訳した。
長い沈黙。松さんの思考は完全に停止している。
「アイセイカンパイ、ユーセイカンパイ、オーケー?」
会場の日本人全員が「何を言ってるんだこの人は!?」と思ったに違いない。普通は、新婦の人柄やエピソードなどの小話を挟むものだが、この人はいきなり乾杯をしようとしている。しかもよくわからない英語で。俺は「もうどうにでもなれ!」と思った。
「カンパーーーーーイ!!!」
松さんは大きく発声し、グラスを高々と掲げた。来場者もそれに応えて声を出し、乾杯をした。
型破りな挨拶だったが、この乾杯で会場はかなり盛り上がった。席に戻ってきた松さんの「何かを成し遂げた」かのような表情が忘れられない。ジャケットまで到達した脇汗の染みと、風呂上りのようにぐっしょり濡れた頭髪が、彼の緊張を物語っていた。
歓談の時間になると、松さんは先程の緊張が嘘だったかのように元気になった。緊張が一気に解け開放的な気分になったのだろう。浴びるように酒を飲んでいる。
気分が高揚した松さんは、ビール瓶を片手に各テーブルを回りだした。新婦側のテーブルだけでなく、外国人だらけの新郎側にも突撃し、遠慮なく話しかけている。快く受け入れてくれる人もいれば、ドン引きしている人もいた。俺は外国人の苦笑いをこのとき初めて見た。挙式の時にいた金髪の女の子は、また不思議そうな顔をして母親の顔を見上げた。母親は再度「This Is Japanese Style」と子供に言った。俺は今度こそ「No!」と否定しようと思ったが、その前に松さんが「Yes!」と言ったので、もうどうでもよくなって放っておいた。
続いて余興の時間になった。意外にも、アメリカに住むケビンの友人が出し物をするという。どんな余興が始まるのだろうか。俺は期待に胸を膨らませた。
「では、マイケルさんの爆笑コメディーショーをご覧いただきましょう!皆様、万雷の拍手をもってお迎えください!」
またしても徳光さんがハードルを目一杯上げて呼び込んだ。扉が開き、軽快なBGMとともにマイケルが入場してくる。次の瞬間、俺は自分の目を疑った。
マイケルはパンツ一丁の姿だった。ぽっちゃり体系に派手な柄のブリーフ。

その姿に会場は大爆笑に包まれた。日本人も外国人も皆笑っている。これがお笑い用語で言う「出オチ」というやつか。アメリカにも「出オチ」の文化があるとは知らなかった…そんなことを考えていると、いつの間にかマイケルのショーが始まっていた。
「ドウモ、トニカクアカルイ、マイケルデス!」
「アンシンシテクダサイ、ハイテマスヨ!」
マイケルは「とにかく明るい安村」の完全コピーを披露して会場を盛り上げた。ネタの最後には、ケビンを指さしながら、吉田さんの親族の方に向かってこう言った。
「アンシンシテクダサイ、ケビンワ、ステキナオトコデスヨ!」
吉田さんの母親はそれをを見て「全然安心できない!」と言いながら大笑いしていた。俺は「とてもいい余興だな」と思った。
終盤、新婦から家族への手紙の場面では、吉田さんが両親への感動的な手紙を読み上げた。
なぜか吉田さんより先にケビンが号泣していた。
「なんでお前が泣いとんねん!」
泥酔した松さんが下品な声でツッコミを入れた。
「コレガナカズニオラレマスカ!」
ケビンは目頭を押さえながら言い返していた。
全てのプログラムが終わり、いよいよ新郎新婦が退場する時間となった。
「お二人の新たな門出の時が参りました。皆様、万雷の拍手をもって…」
徳光さんの声が途切れた。見ると、ハンカチで目頭を押さえている。司会者が会場の誰よりも泣いていた。「涙もろさ」まで徳光和夫さんに似ているとは…むしろ自分から似せにいっているとしか思えない。
「なんでお前が泣いとんねん!」
マツさんがまた下品な声でツッコミを入れた。
「これが泣かずにおられますか!」
徳光さんは震える声で言い返した。それを聞いて会場が笑いに包まれた。日本人も外国人も関係なく、一つになれたような気がした。
二人を送り出すと、天井から大きなスクリーンが下りてきて、エンドロールの動画が投影された。
参加者の笑顔が次々と映し出される。ツッコミどころは多かったけれど、本当に素敵な結婚式だった。俺はこらえきれず涙を流した。
最後に二人の幸せそうな笑顔が映し出され、エンドロールが終了した。
拍手は鳴りやまず、いつしかスタンディングオベーションとなった。拍手と涙と笑顔に満たされた会場。俺は涙をこらえるのを諦め、号泣した。
金髪の女の子が母親に「Is This Japanese Style?」と聞いていたので、俺は大きな声で「
Yes!」と答えた。


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