黒マッチョこと三浦三郎さんが運営するパーソナルジム「ワクワクゾーン」の門を叩いてしばらくが経つ。(詳細は「黒マッチョとの再会①(ワクワクゾーン)」と「黒マッチョとの再会②(ワクワクハーフタイツ)」の記事を参照)
入会してからというもの、理想の肉体を手に入れるために努力を続けてきた。三郎さんの指導のもと、これまでの弱い自分が嘘のように、本気でトレーニングに打ち込んでいる。
初めは「ちょっと変だな」と感じていた三郎さんの指導も、今ではもう当たり前になった。
「イチ、ニ!ワクワク!ニ〜ニ!ワクワク!」
今日も三郎さんの元気な声がジムに響く。
「サン、ニ!ワクワク!ヨンニ!ワクワク!」
俺もそれに負けない声であとに続く。いつの間にか、なんの躊躇もなく言えるようになっていた。
レッスン後、体組成計で体重と体脂肪率を測定する。これまで、一時的なスランプもあったが、なんとか計画通りに数値を落としてきた。そろそろ最終目標を達成してもいい頃だ。
「惜しいな~あと少しなんだけど」
三郎さんの残念そうな声が聞こえた。最終目標まであと一歩のところまで来ているのだが、なかなか達成することができない。
「どうすればいいんだ…」
俺は力なくつぶやいた。
「大丈夫だよ」
三郎さんは励ましてくれたが、俺の不安は消えなかった。それには理由がある。次のレッスンで3か月コースが終了するからだ。次回は5日後。その日に目標数値を達成していなければ、俺の挑戦は失敗に終わる。
「5日間、何をすればいいでしょうか」
俺は三郎さんに助言を求めた。
「自分を信じて、今までやってきたことを続けていればきっと大丈夫」
三郎さんは清々しいほどの笑顔でそう言った。今までのアドバイスはとても具体的で的を射たものが多かったのに、今回は珍しく精神論だ。
「本当に大丈夫でしょうか」
俺はもう一度確認した。
「大丈夫。自分を信じて」
三郎さんは俺の背中をたたいた。強烈な力だった。その瞬間、不意に力が湧いてきた。理由は分からない。この人には相手に「本気」にさせる得体の知れないパワーがあるのだ。
帰る準備を整え「最後まで頑張ります」と言ってジムを出る。正直に言うと、まだ少しだけ不安が残っていた。
「しげる君!」
後ろから元気な声が飛んできた。
「なんですか?」
振り返って三郎さんの方を見る。
「ワクワクしてるかい!?」
この質問で、忘れかけていた大切なことを思い出した。
「はい!」
俺は大声で返事をした。
それからの5日間は、三郎さんに言われた通りこれまでと同じトレーニングと栄養管理を継続した。断食や水抜きをすればもう少し体を絞れたかもしれない。だが、それは一過性の効果に過ぎないし、逆に無理をすることで体調不良やリバウンドにつながる可能性もある。それよりも、これまでの自分の努力を信じたかった。
そして5日後、運命の最終レッスンの日がやってきた。
「しげる君、ついに最後だね」
「はい。三郎さん、これまでありがとうございました」
「礼を言うのはまだ早いよ。さあレッスンを始めよう」
そんな会話をした後、いつも通りのトレーニングが始まった。
「イチ、ニ!ワクワク!ニ〜ニ!ワクワク!」
「サン、ニ!ワクワク!ヨンニ!ワクワク!」
二人の息はぴったりだ。この掛け声も今日で最後だと思うと、寂しい気持ちになってくる。俺は今までで一番大きな声を出した。
「わっしょい!ワクワク!」
「おっしょい!ワクワク!」
充実した時間はあっという間に過ぎていく。気付くとトレーニングが終わり、数値測定の時間になっていた。
三郎さんに促され、俺は恐る恐る体組成計の前に立った。心なしか、足が震えている。右、左の順に足を上げ、機械に全体重を預ける。少しして、液晶画面に数字が表示された。
結果は、ギリギリで目標を達成していた。
「しげる君、おめでとう!」
即座に三郎さんの声が飛んできた。その表情は喜びで満ちている。
「やったーー!」
俺はお礼の言葉も忘れ、両腕を上げて感情を爆発させた。三郎さんはそんな俺を優しく抱擁してくれた。密室でおっさん同士が抱き合っている。客観的に見ると気持ち悪い絵面だが、現実なのでしょうがない。三郎さんに抱きしめられ、俺は不覚にも涙を流してしまった。
この3か月間、三郎さんからは本当にたくさんのことを教えてもらった。トレーニングや栄養管理の方法もそうだが、最も大きな収穫は「ワクワクすることの大切さを学べたこと」だと思う。
もちろん「理想の肉体を手に入れたこと」も喜ばしいことだが、それよりも「目標を決めて達成する経験」ができたことは、これからの人生にきっと活きてくると思う。
「おめでとう。ささやかだけど、僕からのお祝いだよ」
三郎さんがそう言って紙袋を渡してきた。俺は驚きながらも「ありがとうございます」と言ってそれを受け取った。
「開けてみて」
三郎さんがそう言うので、包みを開けて中身を確認した。手に伝わる柔らかい感触。
それは、カルバンクラインのパンツだった。しかも、ワクワクボードの中央に貼りつけた画像と全く同じものである。
「はいてみて」
俺は耳を疑った。ここで試着しろということか。俺が戸惑っていると三郎さんは「さあ!さあ!」と促してくる。俺は半ば強引に試着させられた。
「いいね~!似合ってるね~!ワクワクだね~!」
三郎さんはご機嫌だ。
「そうだ!グループチャットで共有しよう!」
テンションが上がった三郎さんがそう言ってスマホのカメラレンズを俺に向けた。
「さあ、ポーズ決めて!さあ、さあ!」
すごい勢いで言ってくる。俺に断る権利はないようだ。仕方なくワクワクボードに貼ってあるモデルと同じポーズを取る。
三郎さんは、ひとしきり写真を撮ったあと、おもむろにスパッツを脱ぎだした。
「何してるんですか!?」
俺は驚きながらツッコんだ。
「僕も買っちゃったよ~!」
なんと、三郎さんはスパッツの下に俺と同じカルバンクラインのパンツをはいていた。

俺はその光景に若干の恐怖を感じながらも、同時に「三郎さんらしいな」と微笑ましい気持ちになった。
三郎さんは俺のことをいつも自分のことのように考えてくれた。
自分のことのように悩んでくれ、
自分のことのように必死になってくれ、
自分のことのように喜んでくれた。
三郎さんだったから、最後までやり遂げられたのだと思う。
まさに本物のコーチだ。
ありがとう、三郎さん。
俺は自分と同じパンツをはいた黒マッチョのおじさんに、心の底から感謝した。



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