【怖い話】彷徨い

小学四年生の男の子Aは、学校でいじめられていた。家に帰れば両親が喧嘩ばかりしており、どこにも居場所はなかった。だから、よく一人で公園に行って時間を潰していた。ブランコとベンチくらいしかない小さな公園。管理も行き届いておらず、雑草が生い茂っていた。でもAにとってはその方がよかった。たくさん人が来るような公園は落ち着かない。同級生や親から距離を取って、一人になりたかったのだ。

ある時、いつものように放課後に公園に行くと、珍しく他の子どもがいた。ベースボールキャップを被った普通の男の子。誰かのお下がりなのだろうか、野球チームのロゴが少し古い。歳は同じくらいに見える。

Aがベンチに座ってぼんやりとしていると、その少年(Bとする)が「一緒に遊ぼう」と言ってきた。Aは急な声かけに驚いたが、断る理由もないので一緒に遊ぶことにした。二人ともおとなしい性格で、走り回ったりボールを追いかけたりすることはなかった。何もせずブランコに揺られたり、ほとんど会話もなくベンチに座って同じ時間を過ごした。

翌日以降もAとBは公園で一緒にいた。相変わらず活動的なことはせず、二人でただなんとなく過ごした。それでもAは、友達ができたみたいで嬉しかった。

いつの日だったか、Bは自分が大事にしている金色のメダルをくれた。Aはこれまでの人生で、誰かに何かをもらった記憶がほとんどなかった。誕生日やクリスマスにも、両親がプレゼントをくれることはなかった。だから「このメダルは一生大事にしよう」と心に決めた。

ある時、Bは「僕、透明なんだ」と言ってきた。Aにはその意味が分からなかった。ただふざけているだけだろうと思い、相手にしなかった。

六年生くらいになると、Aは公園に行かなくなった。成長するにつれ、公園にいる自分が子供っぽく思えてきたのだ。また、父が浮気して出て行ったおかげで、家の居心地がよくなったというのも理由だった。

さらに時が経ち、中学二年生になったAはある事実を知ることになる。それは、自分の住む町で十年以上前に起きた殺人事件のことだった。社会から孤立して自暴自棄になった男が小学生の頭をバットで何度も殴ったという凄惨極まりない事件。Aはたまたま見た当時の新聞記事で被害者の顔を見た。それは、紛れもなくあの少年の顔だった。Aは悟った。Bがこの世のものではなかったということを。そして、Aはもう一度Bに会いたいと思った。何故そんな風に思ったかはわからない。

Aが数年ぶりに公園に行くと、そこには誰もいなかった。Aはベンチに座って待ってみることにした。

陽が沈みかけた頃、こちらに寄ってくる少年が見えた。それは、Bだった。小学生の時と変わらぬ姿をしている。

BはAに「一緒に遊ぼう」と声をかけてきた。Aのことを覚えていないようだ。身長も伸び、顔つきも変わっているので仕方がないことだろう。おそらくBは、自分の成長が止まっていることにさえ気付いていない。

二人は一緒に過ごした。まるで兄弟かのように。Aはとても懐かしい気持ちになった。

ベンチに座っているとき、強い風が吹いてBのキャップが飛んだ。急いで追いかけるB。
その後ろ姿を見たAは思わず目をふさいだ。Bの後頭部がパックリと裂けて、そこからドロドロとしたものが飛び出していたのだ。やはりBはこの世のものではない。Aはそう確信した。

急いでキャップを被ったBは、何事もなかったかのようにベンチに戻って腰を下ろした。
Aは、なんと声をかけて良いかわからなかった。

その日以降、Aの公園通いが再開した。どうしてもBを放っておくことができなかったからだ。

ある時、Bが「僕、透明なんだ」と言った。小学生の時にも聞いたセリフだ。きっと、Bは自分が死んでいることに気付いていない。透明になったと思い込んでいる。Aは本当のことを教えるべきか悩んだ。真実を知れば、Bは成仏してくれるかもしれない。でも、その保証があるわけではない。辛い思いをさせるだけになるかもしれない。悩んだ末、Aは口をつぐんだ。

翌日から、AはBの家族を探した。家族から本当のことを伝えてもらえれば、Bもきっと理解してくれると考えたのだ。AはなんとかBの家の住所を知ることができた。すぐに行ってみたが、家族は既に引っ越しており、家には誰も住んでいなかった。

結局、Aにできることは一緒に遊んであげることだけだった。いつしか、AはBのことを本当の弟のように感じていた。学校では中学生になった今でもいじめが続いているし、母親はほとんど家に帰ってこなくなった。そんなAにとって、心の支えだったのかもしれない。

このようにBと時間を過ごしていたAだったが、中学を卒業する間際になると、ある決心をした。

Bに本当のことを伝えることにしたのだ。

自分は中学校を卒業したら仕事に就くつもりだ。そうすれば、今までのように一緒に過ごす時間はつくれなくなる。それに、こんなことをいつまでも続けるわけにはいかない。どこかで区切りをつけるべきだ。真実を伝えれば、Bはきっと成仏してくれる。

そう考えてのことだった。

その日、AはBに真面目な顔で話しかけた。

「話があるんだ」

「なに?」

Bは普段通りの顔で答えた。Aは深く呼吸をした後、口を開いた。

「君はもうこの世にはいない。十年以上前に事件に巻き込まれて亡くなっているんだ」

無言の時間が続いた後、Bは「そんなの噓だ。僕は透明になっただけだよ」と言った。Aは事件のことをBに説明した。Bは「嘘だよね?」と言って信じない。

「本当なんだ。その証拠に君はいつまでも小学生のままだ。僕はこんなに成長したのに」

「どういうこと?」

やはり、Bは自分の成長が止まっていることを自覚していない。

「僕たちは小学生のころに一度出会っているんだ。これを覚えてる?」

Aは小学生の時にもらった金色のメダルを見せた。Bは黙っている。

「これは君が僕にくれたものだよ。あの時の小学生は僕なんだ。今は中学3年生になった」

「本当なの?」

Bは瞳に涙をためている。

「ああ。だから君は天国へ行くべきなんだ。ずっとここにいちゃだめだ」

Bの瞳から涙がこぼれた。それを拭おうともせず、その場に立ち尽くしている。Aは必死で涙をこらえた。

しばらくして、BはAに背を向けた。そして、無言のまま歩き出し、どこかへ行ってしまった。

それから数日後、Aは公園へ行った。もちろんBがいなくなっていることを期待していた。だが、Bはそこにいた。成仏していなかったのである。

「一緒に遊ぼう」

Bはそう言ってまた涙を流した。Aは何も言えなかった。

それからずっと、Aは公園に通い続けている。Aが60歳を超えた今でもBは少年のままだ。

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