黒マッチョとの再会②(ワクワクハーフタイツ)

三郎さんからは、ワクワクボードの作成以外にも指示をもらっていた。それは、会員同士がやり取りをしているグループチャットへの参加だ。ワクワクゾーンでは、目標値が同じくらいの会員が集まってグループを形成しているらしい。

俺は早速、招待されたグループに挨拶のメッセージを送信した。するとすぐに「ようこそ!」「一緒に頑張りましょう!」など、歓迎の返信が届いた。三郎さんは「全然堅苦しいものじゃないから、気軽に参加してね」と言っていたが、どうやら嘘ではないらしい。過去のやり取りを覗いてみると、自宅で行った自主トレの報告をしたり、互いに励まし合ったりしている様子が伺えた。三郎さんは「一人だと挫折しそうな時も、仲間がいれば頑張れるんだ」とも言っていたが、確かにその通りだと思った。

「アイコンは憧れのボディに設定してね」

三郎さんからそんなメッセージが届いた。確かに他のメンバーも思い思いの肉体の画像をアイコンに設定している。ちなみに三郎さんは、アーノルド・シュワルツェネッガーのボディビルダー時代の画像だった。俺は迷うことなく、ワクワクボードの真ん中に貼りつけたカルバンクラインのモデルを選んだ。

そんなこんなで数日が経過し、トレーニング初日を迎えた。ジムの中に入ると、三郎さんが開口一番「ワクワクしてる〜?」とハイテンションで聞いてきた。今日も「ワクワクゾーン」と大きく書かれたTシャツを着ている。さらに下半身には、同様の文字がプリントされたハーフタイツまで着用している。尻と太ももがピチピチで、今にも生地が張り裂けんばかりだ。正面を見ると、股間部分はこれでもかというほどもっこりとしている。せめて短パンを重ね着してほしかった。

「宿題はしてきたかい?」

三郎さんにそう問われ、俺は自宅で撮影してきたワクワクボードの画像を見せた。

「ワクワクだね~!ワクワクがみなぎってるね~!」

独特の表現でよくわからないが、おそらく褒められたのだと思う。

それから簡単なメニューの説明などを受けた後、実際のトレーニングに入った。最初のメニューはストレッチ。立ったまま両足を大きく広げて前屈をする。

「こんな感じね~」

俺の前方では、三郎さんがお手本を示してくれている。俺は前屈をしながら首を曲げ、三郎さんの手本を確認した。「イチ、ニ、ワク、ワク」などと言いながら前屈をする三郎さんの姿が目に映る。

次の瞬間、衝撃の光景が目に飛び込んできた。

三郎さんのハーフタイツのお尻の割れ目が裂けたのだ!長さ15センチくらいの裂け目からは、真っ赤なパンツが見えている。俺は突然の出来事に固まってしまった。

「どうかしたかい?」

三郎さんが股の間から俺を見て言った。

「いえ、なんでもないです」

俺は思わず曲げていた首を元に戻し、その悲惨な光景が目に入らないようにした。三郎さんは前屈を続けている。どうやら股裂けには気づいていないようだ。

それにしても、先日行ったボウリングでの力丸に続き、この短期間で二人の股裂けを目撃するとは…年末に決めている「俺の今年の漢字」は「股」か「裂」で確定だな。などとどうでもいいことが頭に浮かんだ。

その後も三郎さんはお股の緊急事態に気がつかず、トレーニングは続いていく。すると、あるタイミングから三郎さんの様子がおかしくなった。なんだか動きがぎこちない。それを見て俺はあることに気づいた。

三郎さんは、俺に後ろ姿を見せないようにしている。

間違いない。股裂けに気づいたのだ。道具を取るために移動する時も、不自然に体の正面を向けたまま、後ろ歩きや横歩きをしている。

俺は正直に「股裂けてますよ」と伝えようかとも思った。その方が三郎さんも楽になるのではないかと。だが、恥をかかせるのも悪いと思い、その言葉を飲み込んだ。

メニューは筋力トレーニングに移り、俺は三郎さんに促されるままダンベル運動を始めた。日頃はスクワットばかりで腕を鍛えることなどほとんどない。案の定、十回ほど上げ下げしただけで筋肉が悲鳴を上げ始めた。

「さあ頑張って!イチ、ニ!ワクワク!ニ〜ニ!ワクワク!」

三郎さんは一人で盛り上がり始めた。立ち位置が固定されて後ろを見られる心配がなくなったからか、とても生き生きしている。

「もうひと頑張り!わっしょい!ワクワク!おっしょい!ワクワク!」

初めはウザいと思っていた三郎さんの掛け声だったが、聞いているうちに不思議と気分が乗ってきた。掛け声に促されてワクワクボードを思い出すことで、体の内側からやる気がみなぎってくる。生まれて初めて筋力の限界を越えられた気がした。

トレーニングが終わると疲労困憊だったが、これまでに感じたことのないような清々しさもあった。多幸感と呼んでもいいかもしれない。そういえば「筋トレは合法的なドラッグ」と聞いたことがある。おそらく、体内では良い感じのホルモンがドバドバ分泌されているのだろう。

帰り際、すっかり良い気分になった俺は、受付で販売されているワクワクゾーンオリジナルTシャツを購入した。三郎さんがいつも着ているやつだ。

「どうもありがとう!」

会計を済ますと三郎さんがそう言って白い歯を光らせた。カウンターの中でも決して俺に尻を見せないように注意している。三郎さんは言葉を続けた。

「こっちはどうだい!?」

彼がそう言って勧めてきたのは、シャツの横に陳列されたハーフタイツだった。

「それは遠慮しておきます」

俺は今日の出来事を踏まえ、購入を控えた。

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