遅くなってしまったが、この前の合同コンパの話を書きたい。記事「俺は運がいい」で少し触れたコンパだ。その際にあまり詳しく書けなかったので、今回改めて記していこうと思う。とりあえず、忘れてしまった人向けにあらすじからどうぞ。
<これまでのあらすじ> ※少年漫画風
オス!みんな聞いてくれ!その日俺は、最強の敵に挑んでいたんだ。そう、ネガティブという名の敵にな!
「どんなことでも前向きにとらえることが大事」って他人は言うけど、実際は難しいよな…それができれば苦労しねえっての!
戦いの中で、俺の心は何度も折れそうになった。それでも諦めなかった。途中、「トータルファッションやまむら」っていう行きつけの店で「explosion」と書かれているノースリーブシャツを手に入れたりもした。このシャツがすごく爽やかなんだ!「explosion」っていう単語は初めて聞いたけど、きっと「虹」とか「波」みたいな爽やかな意味だよな!?
おっと、余談はこれくらいにして本題に戻るぞ!その日の夜、俺にはもう一つの戦いが待っていたんだ!そう、合同コンパという名の戦いがな!
でも勘違いしないでくれよ!友達がどうしてもって言うから参加することにしただけで、本当は行く気なんてなかったんだぜ!
夕方、コンパ開始まで時間を持て余した俺は、コンビニに寄って新品のexplosionシャツに着替えて会場に向かった。
え?すごいやる気じゃないかって?全くその通りだ…でも、せっかく参加するなら全力を尽くすのが男ってもんだろ!?
そんなこんなで意気揚々と戦いの場に乗り込んだ俺!だったんだけど…靴下のつま先、かかとがダブルで破れてて、いきなりの大ピンチ。しかも、すぐに女子にバレて「ダブル」というあだ名をつけられちまった!

トホホ。この先どうなってしまうことやら…先が思いやられるぜ!
本編に続く
<本編> ※少年漫画風はやめます
まず男性陣のメンバーを発表する。人数は四人。
(今回は色んな人物が出てきてわかりづらいので、失礼ながらアルファベットで表記させてもらう)
一人目は仕事の関係で知り合った友人A。今回の幹事だ。明るく社交的で飲み会大好き。なかなかのイケメンで話も上手い。かなりのモテ男だ。
次にB。彼はAの友人で、飲み会で何度か一緒になったことがある。と言っても数回話した程度で、特別親しいわけではない。彼の見た目はいたって普通。耳が隠れるくらいのミディアムヘアーが唯一の特徴だ。一見キザな感じに見える男で、話してみると見た目通りキザな男だ。
最後はC。なんと、彼とは今日が初対面だ。初対面同士をコンパに呼ぶなんてAは本当にどうかしてる。Cの見た目はとても地味だ。シンプルな短髪と黒ぶち眼鏡が、彼の真面目っぽさを際立たせている。
以上が男性メンバーだ。サッカーで言えば、Aがフォワードで、他三人がディフェンダーといった布陣だろうか。
続いて女性陣のメンバーを発表する。人数は四人。全員が看護師で、同じ職場の仲間なのだという。W子、X子、Y子の三人は揃って美人。そしておしゃれ。サッカーで言えば完全に点取り屋のフォワードだ。
そして四人目はZ子。彼女だけ他の三人と分けて紹介するのには理由がある。女性陣の中でひときわ異彩を放つ存在だからだ。まず体型はかなりのガッチリ系。柔道やレスリングでもやっていそうな感じだ。顔はハッキリとしており、目力が強い。サッカーで言えば、ゴールを守る守護神と言った風貌である。そして性格は陽気でよく喋る。まさにムードメーカーといった感じだ。ちなみに俺の靴下の穴に気づき、「ダブル」というあだ名をつけたのもこの女である。
開始直前、驚きの情報が飛び込んできた。Aが今日のコンパに来ないと言うのである。急用が入ったため欠席するらしい。つまり、俺、B、Cの地味な三人で合同コンパという名の試合に挑まねばならないということである。
頭が不安でいっぱいだ。今日の試合、どうやって戦えばいいのだろうか。
席は八人用のテーブルで、男三人と女三人が向かい合い、Z子が誕生日席に座るというフォーメーションとなった。「すべらない話」と同じ席配置である。Z子は美人三人の誰かに「こっちに座りなよ」と促されていたが、「この方がバランスいいじゃん」とよくわからないことを言って移動しなかった。
Cは「確かにこの座り方だと向かい合う人数が同じでバランスが取れている」と真面目に反応している。見た目通り真面目な人物のようだ。
Bはというと、Z子に構うことなく正面を見て「美女が三人並ぶとオリオン座の三ツ星みたいだ」とキザなセリフを吐いている。相変わらずだ。
そんなこんなでファーストドリンクが到着し、試合開始のホイッスルが鳴った。乾杯をした後、一通り自己紹介を済ませた。
どうでもいい情報だが、男性陣が三人ともアコースティックギターを弾けるという共通点が見つかった。Z子から「君たちもしかしてサムシングエルス?」というツッコミが入った。俺は懐メロが好きだからわかるが、美人三人は「誰それー?」と笑い合っている。
Cは「直訳すると『何か別のもの』という意味だね」と相変わらず真面目な反応。
Bは「君たちが三ツ星なら僕はペテルギウス」と誰も聞いていないキザ話を続けている。
これも自己紹介の時に判明したことだが、Z子は39歳なのだという。他の三人と比べてだいぶ老けていると思っていたので納得だ。ちなみに男性陣は全員29歳で、美人三人は26歳である。
聞けば、Z子は明日が40歳の誕生日なのだという。「今夜は30代最後の出会いのチャンスなのー」などと言っている。俺は、男三人でサムシングエルスの「ラストチャンス」でも歌ってあげようかと思った。
数的不利の俺たちは、予想通り相手に主導権を握られた。Z子は、すべらない話の松本人志ばりのMC力を発揮。彼女を中心に会話が展開され、男性陣がいじられて女性陣が盛り上がるという構図が出来上がってしまっている。
途中、服装の話になった。これは形勢逆転のチャンスだ。俺はオシャレに自信がある。しかも今日は手に入れたばかりの最高にクールなexplosionのノースリーブシャツを着ているのだ!
「このシャツ今日買ったんだ!爽やかでよくない?」
俺は自信満々に言い放った。
「ウケるー!」
美人のうちの一人が言った。俺は状況が理解できなかった。
「exprosionって爆発って意味だよ〜」
美人が続けた。俺は頭が真っ白になった。もっと爽やかな意味だとばかり思っていた。仮に外国人が漢字で「爆発」と書かれたノースリーブシャツを着て歩いていたとしよう。笑い者になることは間違いない。俺はそれくらいの間違いを犯していたのだ。
たしかに岡本太郎は「芸術は爆発だ」という名言を残した。しかしそんなこと、今はどうだっていいことだ。今はただ、爆発しそうに恥ずかしい。
こうして形勢逆転に失敗した俺たち。その後も女性陣を中心に会話が展開された。そんな中、Bから思いもよらない発言が飛び出した。
「この中で一番気になる異性を紙に書こう」
かなり思い切った提案だ。Bの説明によると、紙は全て回収して、誰が誰の名を書いたかわからない状態で公開するのだという。Bはその後も細かいルール説明をした。
「そういうのは大丈夫」
残念ながら速攻で却下された。
だが、Bはどうしてもやりたかったらしく、粘り強く交渉した。かなり酔っ払っていて、先程までのキザさはもう無い。両手を合わせ「本気のお願い!」と頭を下げている。
結局、Z子の判断で、女性陣だけが書くことで話がまとまった。
Cが持っていたキャンパスノートをちぎって女性陣に配る。鉛筆もCが四人分持っていた。さすが真面目な男。
そして、それぞれがその紙に気になる異性の名前を書き始めた。その間、男性陣は目を瞑って待っていた。
「準備完了!」
Z子の声がしたので目を開けると、4枚の紙が裏返しの状態でテーブルの上に並べられていた。
「では表を向けます」
Z子が言った。正直、すごく緊張した。男性三人に対して女性四人。つまり、男性陣に必ず格差が生まれるのだ。BとCには負けたくない。全員とは言わないから、せめて二人は俺の名を書いていてほしい。そう願った。
「せーの!」
Z子の掛け声と共に四枚の紙が一斉に表向きにされた。
結果はまさかの全部白紙。つまり全員0票の横並び。トルシエJAPANもびっくりのフラットスリーである。
「なんでみんな書いてないのーw」
「みんな考えることは同じだねーw」
女性たちははしゃいでいる。
何よりもショックなのは、Z子にすら選んでもらえなかったことだ。悲しすぎて涙も出ない。
俺とBは「ハハハ」と顔をひきつらせ、Cは「つまり、女性陣は誰ひとりとして男性を気に入ってないということだ」と真面目に状況を整理している。
自信を喪失したまま時間は過ぎ、お開きの時間となった。会計を待っている間、Z子は皿に残った料理を次から次に食べ始めた。綺麗に完食すると「あーたくさん食べた。もうこれ以上は無理」と言ってゲップをした。本当に強烈な女性だ。
帰り際、俺とZ子の家が近所であることが判明し、危うく同じタクシーに乗せられそうになったが、適当な理由を言ってこれを回避した。Z子は美人三人に「女子だけでもう一軒行こうよー」と誘われていたが「もう食べれない」と断っていた。
タクシーを見送った後、美人三人は男性陣に「じゃあねー」と言って、夜の街に消えて行った。仲良く腕を組んでいる。これからキラキラした夜を過ごすのだろう。
Bは「じゃあ」と言い残し、フラフラの足取りでその場を立ち去った。明らかに酔っ払っている。少し様子を見ていると、10メートルほど先で客引きの女性に声をかけられ、そのままついて行ってしまった。その後のことは誰も知らない。
Cは「それではまた」と一礼して歩いて行った。
一人になった俺は駅に向かった。電車を待っていると、向かいのホームにCの姿が見えた。ベンチに座り、本を読んでいる。飲んだ後に読書なんて、どこまで真面目なやつなのだろう。
俺はふと「みんなちがってみんないい」という金子みすゞさんの詩を思い出した。
満腹で帰って行ったZ子も、仲良く夜の街に繰り出した美人三人も、客引きについて行ったBも、ホームで読書するCも…それぞれがそれぞれの幸せを感じながら生きているのだ。否定する権利は誰にもない。
最寄駅からの帰宅途中、家の近くの牛丼屋の前を通った。ふと店内を覗くと、驚きの光景が目に入った。なんと、Z子がすごい勢いで牛丼を食べていたのだ。「もう食べれない」という言葉はなんだったのだろう。
「みんなちがってみんないい」
満足そうなZ子の顔を見て、またその言葉が浮かんだ。
時刻を見るとちょうど0時を過ぎたところである。
「ハッピーバースデイ」
俺はそうつぶやいて家路についた。



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