ボウリングって最高だ

先日チームでボウリングに行った。仕事中にスマホを触っていた松さんが突然「そうだ!ボウリングに行こう」と言い出したのだ。どうやら、ボウリング場が減っているというニュースを目にしてスイッチが入ったらしい。

ボウリングは昭和40年代(1960年代後半〜1970年代前半)に一大ブームとなり、社会現象にまでなった。ピーク時は全国に約3,700か所のボウリング場があったらしい。ところが、その後日本人のボウリング熱は少しずつ冷めていき、現在は700か所以下にまで減ってしまったようだ。

松さんの提案はすんなりと受け入れられた。こう見えて俺たちはノリが良い。課長は「いいですね」となんの迷いもなく受け入れた。長谷川さんはいつもの冷めた感じで「別にいいですけど」と答え、それに乗っかるような形で吉田さんが「行きましょ行きましょ」と声を弾ませた。俺の返事を待つことなく「じゃあ早速明日行こう」と松さんが勝手に日程を決めてしまった。

そして翌日、俺たちは職場近くのボウリング場に集結した。俺と課長、吉田さんは時間通りに到着。長谷川さんは仕事の関係で少し遅れると連絡があった。集合時間を5分ほど過ぎたところで、松さんがやってきた。遅刻しているにもかかわらず胸を張ってこちらに歩いてくる。その姿を見て俺の全身に電撃が走った。松さんはど派手なボウリングウェアを着ていたのだ。黄色や緑やオレンジなど、様々な色が入り乱れた襟付きシャツに白パンツ。もちろんシャツはパンツにインしている。さらに、キャスターが付いた大きなケースを引いている。中にはマイボールやマイシューズが入っているに違いない。

「なんですかその格好!?」

吉田さんが直球の質問をした。

「見たらわかるだろ。ボウリングの格好だ」

松さんは直球を投げ返した。

俺たちは何も言えなくなり、とりあえず受付を済ませることにした。

「投げる順番は、課長、しげる、吉田、俺でいいな」

松さんが申込用紙を手に取り、張り切ってそれぞれの名前を記入している。その後、フロントのお姉さんに用紙を渡し、俺たちは案内されたレーンへと移動した。

各自、シューズを履いたりボールを選んだりして準備を進める。画面には4人の名前が表示された。それを見て、俺の全身に本日二度目の電撃が走った。松さんは本名ではなくニックネームで申し込みをしていたのである。それぞれ、以下のように登録されていた。

中山課長・・なかい
俺・・・・・かとり
吉田さん・・いながき
松さん・・・きむら

間違いない。これは紛れもなくSMAPだ。完全にスベっている。中学生がやりそうなボケだ。それと、どうでもいいが少し気になる点がある。松さんが自分を「きむら」にした点だ。キムタクの要素ゼロなのに…俺はなぜか腹立たしい気分になった。

そんな俺の気持ちなど知る由もなく、松さんはマイシューズ、グローブを身に着けやる気満々だ。マイボールを入念に磨いている。

そんなこんなで、俺たちは4人で1ゲーム目を始めた。

中山課長はそれなりの腕前だった。吉田さんも女性にしてはそこそこ上手である。おそらく、中山課長は120点、吉田さんは100点前後で着地するだろう。それに引き換え、俺はかなり下手くそだ。80点にも届きそうにないペースである。

ここで俺の全身に本日三度目の電撃が走った。マイグッズを持参した松さんが俺より下手だったのだ。2回に1回はガターしている。おそらく60点くらいのペースではないだろうか。道具持参でこれだけ下手くそな人は世界中探しても他にいないと思う。一投終えるごとに「つかんだつかんだ」と言っているが、全然つかんでいない。「このレーン、滑りやすいな」などと言い訳を繰り返している。

1ゲーム目の半分が過ぎたところで、隣のレーンに威勢のいい4人の若者が入ってきた。俺の苦手なリア充系の連中だ。「ボウリング場のシューズってダサすぎだろ」「それな」などと会話している。皆揃ってピタッとしたスーツをご着用だ。

よく見ると、その中に見覚えのある人物がいた。それは力丸だった。彼はこちらに気づくなり「皆さん揃って何してんすかー?」と高めのテンションで声をかけてきた。俺は「ボウリング以外ないだろ」と思いつつ黙っていた。力丸というのは「営業とかけまして」の記事でも登場した、会社の後輩である。俺達とは別の営業チームに所属している。正直、とても苦手なタイプだ。今日も自慢のツーブロックと鍛えられた肉体がこれでもかと自己主張している。

「俺は異業種コミュニティの仲間とボウリングっす」

力丸は聞いてもいないのに言ってきた。俺は「異業種コミュニティってなんだよ」と心の中でツッコんだ。よくわからないが、俺には一生縁がない集まりなのは間違いないだろう。

そうこうしているうちに、力丸たちもボウリングを開始した。彼らは一様に上手だった。それぞれ150点前後のペースで投球している。

「次のゲーム、勝負しましょうよ」

力丸が半笑いで言ってきた。普通に考えて勝てる見込みがないので俺は断ろうとした。だがその時、松さんが「面白い。やってやろう」と言い出した。この人はいつも勢いで物事を決めてしまう。きっと今回も、勝ち負けなど考えずにノリで言葉を発したのだろう。

両チームとも1ゲームを終え、2ゲーム目から勝負が始まった。ルールは単純に一人当たりの得点を競うというもの。それと、松さんの強引な交渉で「女性はハンデで+50点」と言うルールが設けられた。女性がいるこちらに有利な条件だ。ただ、吉田さんに+50点したところで、俺と松さんがいる限り勝ち目はないだろう。

勝負は予想通りの展開になった。力丸たちは一人平均140点〜150点くらいのペースで投球していった。一方の俺たちは、吉田さんのハンデを入れても平均100点くらいにしかならないペース…

もちろん足を引っ張っているのは俺と松さん。松さんはゲームの途中で「そうだ、これ忘れてた」と言いながらボウリング用の手袋みたいなものを装着していたが、スコアへの影響は皆無だった。

終わってみると、相手は四人合計564点で、一人平均は141点。俺たちは合計423点で平均は106点だった。

ちなみにこちらの内訳は以下の通り。

中山課長 132
吉田   103+50(ハンデ)
しげる  78
松さん  61
計    424(平均:106)

力丸は「こっちの圧勝でしたね」と調子に乗っている。ちなみに彼のスコアは130点。相手チームの中では最低だったくせに偉そうだ。一番重い球を頭の高さから足の指に落としてやりたい。

「次もやりますよね?もう少しハンデいります?」

力丸が半笑いで続けた。つくづく嫌味な奴だ。

「やりましょうよ」

ふと背後から声がした。声の主は、1ゲーム目の終盤に到着していた長谷川さんだった。

「何言ってるんだよ。やめた方がいいって。見てただろ?力の差があり過ぎる」

俺はそう言って長谷川さんの意見に反対した。だが彼女は「やりましょう」と言い張った。

「勝負なんかやめて、普通に楽しくボウリングしましょうよ」

今度は吉田さんが長谷川さんの説得を試みた。さらに課長も「その方がいいかもな」と同調した。だが長谷川さんは「勝負した方が盛り上がるじゃないですか」と謎の闘争心を燃やしている。

「よく言った!俺も勝負する方に一票!」

松さんがまた何も考えず言葉を発した。この二人の意見が合うなんて珍し過ぎる。

結局二人の勢いに負け、俺たちはもう一度力丸たちに勝負を挑むことになった。ルールは先程と同じ。女性が二人になったので、ハンデは合計で100点もらえるが、それでも確実にこちらが不利な状況だ。

隣のレーンでは力丸が「そう来なくっちゃ!さすが長谷川先輩!」などと言って調子に乗っている。

少しして、受付で長谷川さんの分の申し込みを済ませた松さんが戻ってきた。液晶画面に五人目の名前が表示される。なんと表示されるかは察しが付く。なかい、かとり、いながき、きむらと来たら、残るはあの名前しかないだろう。俺は液晶に表示された名前を見た。

その瞬間、俺の全身に本日四度目の電撃が走った。そこには「もり」と表示されていた。

「いや、くさなぎじゃないんかい!」

つい、大きな声が出てしまった。確かに、その昔SMAPには森君というメンバーがいたけれど、ここは普通、草彅君を選ぶだろう。百歩譲って、色々とスキャンダラスな中居くんを森君に代えるのなら理解できる。だが、草彅君を外すのはどうしても理解できない。ここで告白させてもらうが、俺は根っから草彅君ファンなのだ。

松さんに修正するよう頼んだが「細かいことは気にするな」とだけ返された。結局、草彅君不在でのボウリング勝負が始まった。

相手の一人目は力丸だ。力任せのストレートボールがピンへと一直線に投げ込まれた。大きな音を立ててピンが弾けた。見事なストライクだった。

「力丸君、今のファウルだよ」

隣からそう聞こえた。声の主は長谷川さんだった。

「え?」

力丸が聞き返した。

「ライン超えてたから、本来なら0点。ここはセンサーがオフになってるみたいだけど」

確かに、力丸はいつもかなりの勢いでボールを投げている。細かく確認していなかったが、さっきのゲームでもほとんどの投球でファウルラインを超えていたかもしれない。

「そんなルールあるんすか?」

力丸は目を大きく開けて聞いてきた。

「ある。ボウリングの基本」

長谷川さんが冷たく答えた。

「じゃあ次の投球から、ファウルしたらその得点は無効な!」

横から松さんの大きな声が飛んできた。力丸は初め拒んだが、長谷川さんから「反則して勝って嬉しいわけ?」と問われ、渋々受け入れた。

そんなこんなでゲームが再開した。こちらの一人目は中山課長。丁寧なフォームで優しい球を投げ、見事ストライクを取った。この人はいつも勝負強い。続く吉田さんは8点、松さんと俺は0点で、皆自分の実力を大いに発揮した。

そして長谷川さんの番が回ってきた。彼女はこのゲームからの参加なので、どれほどの実力か予想できない。相手も全員が一等目を投げ終わり、こちらに注目している。

「あんな細い体で投げれるのかよ」

相手の誰かがそんな言葉を漏らした。確かに長谷川さんはスラっとしたモデル体型で、球を持つ姿はとても頼りない。構えも少しぎこちなく見える。

松さんが俺に小声で「そんなに期待しない方がよさそうだな」と言った。俺は「でも、勝つためにはせめて100点は取ってほしいですね」と返した。足を引っ張りまくっている二人が良く言えたものだ、と我ながら思う。

そんなことを言っているうちに長谷川さんが投球に入った。思いのほか綺麗なフォームだったので一瞬期待したが、ボウリングはそんなに甘くない。手から離れたボールはレーンのちょうど中心に落ち、一直線に溝の方に転がっていった。このままだとガターだ。誰もがそう思っただろう。だが次の瞬間、ボールは予想外の軌道を描いた。溝に落ちるスレスレのところでなんとか持ちこたえ、今度は逆にレーンの真ん中の方へと進みだしたのだ。つまり、長谷川さんはカーブを投げたのである。

カコーーン!

気持ちの良い音がして、全てのピンが弾けた。

「ナイスストライク!」

松さんが今日一番の大声で叫んだ。チーム全員でハイタッチして喜びを分かち合う。とても素敵な光景だ。今のストライクが偶然なのか実力なのか。現段階ではなんとも言えない。だが、一つだけ言えることがある。それは、長谷川さんが俺と松さんよりはるかに上手だということだ。勝利をつかむため、二投目以降の彼女にも期待したい。

力丸の二投目。

「反則するなよー」

松さんからのヤジが飛ぶ。

力丸はちびちびと小股で動き出し、これまでのダイナミックなフォームが嘘かのように縮こまった動きで球を投げた。ファウルをかなり気にしているようだ。

なんとかファウルラインを超えずに投球できたものの、球は2メートルくらい転がったところで溝に落ちた。

力丸の顔からは悔しさが滲み出ている。

「反則無しだと全然ダメだな」

松さんが追い打ちをかける。力丸は無言でベンチに座った。

その後も力丸は大乱調だった。数本倒れることはあったものの、ほとんどの投球はガターに終わった。そして迎えた5投目。彼はこれまでと違う動きをとった。球を両手に持つと、そのままファウルラインの前まで歩いて行き、そこに両足を広げて立った。

仲間が「どうした?」と声をかけると、力丸は「このまま助走を取らずに両手で投げる」と説明した。

「それでガターだったらダサすぎるぞ!」

松さんがまた煽る。力丸のことが相当気に食わないのだろう。「さすがにガターはないよな?」などと煽り散らかしている。この人が味方で本当に良かったと思う。

力丸は両足を広げたまま、球を持った両手をぶらんと下に垂らし、そのまま振り子のように動かした。球が股の下を前後に行き来している。凄くカッコ悪い。

振り子の動きが少しずつ大きくなり、いざ投げようとした瞬間、「ビリリッ」と言う音がした。なんと、力丸のスーツの尻の部分が大きく裂けたのだ。彼はそれに気づいたようだが、動きを止めることはできず、おかしな態勢のままの投球になった。球は力なくレーンの上を転がり、ガターに吸い込まれていく。

場は静まり返った。皆気付いているが、なんと言っていいかわからない。

「ド、ドンマイ」

松さんでさえ気を遣っている。

力丸は手で裂け目を隠しているが、面積が大きすぎて隠しきれていない。真っ赤な色をしたのパンツががっつり見えている。彼の顔もまた、同じ色をしていた。

もちろん、その後も彼が調子を取り戻すことはなかった。

一方、長谷川さんの実力は本物だった。3連続ストライク(ターキー)の神業まで出す活躍ぶり。本人は涼しい顔をして「たまたまですよ」と言っていたが、間違いなく実力だ。

そして気になる最終スコアは下記の通り。

中山課長 135
吉田   81+50
しげる  75
松さん  64
長谷川  183+50
計    638(平均:128)

力丸 60
他3人 443
計503(平均:126)  

力丸は60点で、全参加者の中で最低のスコアだった。長谷川さんは驚異の183点。女性なのでハンデの50点も加点される。平均点は128対126で俺たちの勝利となった。後日聞いた話だが、長谷川さんは1ゲーム目の力丸の投球を見て、ファウルが癖になっていると見抜いていたらしい。「ああいうタイプの人間はファウルを指摘すると途端に崩れるんです」と冷たく語った彼女の表情が忘れられない。

「良い勝負だったな」

試合終了後、松さんが力丸の肩に手を回して言った。

「負けました」

力丸は肩を落とした。尻が裂けて以降松さんは煽りを止めており、二人の間には妙な友情が生まれていた。近年ボウリングは少しずつ人気を失ってきているが、その魅力は昔から変わっていない。敵、味方に関係なく一つになれる不思議な力がそこにはある。

片づけが終わり、力丸たちはその場を去ろうとした。

「ちょ待てよ!」

きむらこと松さんが呼び止めた。そして鞄から取り出したホチキスを力丸に手渡した。彼はそれを使い、尻の裂け目をパチン!パチン!と閉じて帰っていった。

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